私自身も経済の話を学生相手に仕事として話している人間だが、為替相場を始めとする、少し勉強しないと意味のわからない経済指標を、かみくだいて説明しながら、「とどのつまり、この現状は、人間の福祉という観点に還元したとき、どういう意味をもっているのか」というところまで話をもってゆくのは、なかなかむずかしいことだ。
また、経済ニュースというのは、「昨日・今日の為替や株の値動き」のような、超短期的なレベルの話と、「国債発行残高累積、税制改革待ったなし」のような長期の視野でみた大問題とが、つねに「ないまぜ」になって出てくるので、適切な解説者による「腑分け」がなされないと、素人には何のことやらさっぱりわからないという、悩ましい問題もある。
その点、この著者は、国際比較の観点から日本経済の実質的な豊かさの程度を測ろうという、だれでも関心をもつテーマを最初にもってきて、そこから為替相場の基本原理としての購買力平価説に説き及び、それがわかったところで、「金利裁定による円キャリートレード」といった短期的なテーマをも導入して、読者の理解が無理なく進むように実に適切に話を配置しており、「なるほど、こういう順序での教え方がいいんだなあ」と、納得させられる。
また、経済の話というのは現実のデータで実証されてこそ説得力があるものになるわけだが、既存の経済統計をそのまま引用するのでなく、労を厭わずにみずから加工して、本文の説明にたいへんマッチした図表を多数オリジナルに作り出していることも、感心する。
そして「第６章 経済政策と政治制度」「第７章 高齢化と経済成長」は、今後の日本経済の進むべき方向についての積極的提言と、その方向がなかなか取られにくくなっている現代日本政治の構造的問題点について、実に示唆に富むことを多く述べており、政治家にも読んでほしいものとなっている。
幸い、著者はいたずらに難解な数式を振り回す「なまじっか学者ぶった経済学者の通弊」に陥らずに、簡単な代数さえわかる人ならだれでも読み解けるように、たいへん啓蒙的な記述のしかたを心がけているから、多忙な政治家にも本書はお勧めできる。
あえて注文を付けるとすれば、以下の二点だ。
第一、「一人あたり名目ＧＤＰ」と「一人あたり実質ＧＤＰ」を２次元にプロットする41ページの図は、両軸を対数目盛にしたほうが読み取りやすかっただろう。
第二、「購買力平価説」には「絶対的購買力平価説」と「相対的購買力平価説」との二種類の説があることに言及してほしかった。
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